話し方教室 教養講座-岸田首相の日米首脳公式晩餐会スピーチ

画像は首相官邸HPより

岸田首相のスピーチ/FNNプライムオンライン(フジテレビ系)配信

アメリカを国賓待遇で訪問中の岸田首相は、日本時間2024年04月11日午前、ホワイトハウスで行われた日米首脳公式晩餐会でスピーチし、ジョークをふんだんに織り交ぜて笑いを誘うと共に、日米の絆の重要さを強く訴え大きな拍手を受けた。

晩餐会には、日本の音楽ユニットYOASOBI、ソフトボールの上野由岐子選手、車椅子テニスの国枝慎吾さん、宇宙飛行士の星出彰彦さん、米俳優のロバート・デニーロさんほか、日米の政治・経済・文化など各界の著名人が招かれた。

岸田首相の晩餐会スピーチは、以下の通り

大統領、バイデン博士(学者であるジル・バイデン夫人)、ご来賓の皆様、
このような素晴らしい夕食会を主催していただいたこと、そして温かい歓迎とおもてなしに心から感謝の意を表したいと思います。

私がここに来る前に、私のスタッフは、私のスピーチが短すぎると文句を言った人は誰もいなかったと私に言いました。(会場笑)これはおそらく良いアドバイスです。したがって、私のスピーチは短くしておきます。(会場笑)

何よりもまず、正直に言うと、これほど多くの日米の著名なゲストを前に、息を呑み、言葉を失いました。
私の妻の裕子も、言葉を失うくらいで、主賓が誰なのか見分けるのは難しいと私に言いました(会場笑)。それで大統領の隣の席に案内されたときは安心しました。(会場爆笑)

昨年、バイデン大統領とバイデン博士は、G7首脳会議に出席するため、私の故郷である広島を訪れました。

米国への日本人移民の中で最も多くの人が広島から来たことはあまり知られていません。多くの広島の人が、新たな世界、より良い未来、より高みを求めてアメリカへ向かいました。大統領、故ダニエル・イノウエ上院議員が大統領の良き友人だったことは知っています。彼の母親も広島出身でした。

日米両国の長い歴史を振り返ると、先人たちは両国を行き来しながら、ビジネス、学術、芸術、スポーツなどのさまざまな分野で道を切り開いてきました。

「太平洋は日本と米国を隔てているわけではありません。むしろ、それは私たちを団結させます」。これは、約60年前、ホワイトハウスで開かれた国賓昼食会で、ケネディ大統領が同じく広島出身の池田首相に贈った言葉です。

私はこのセリフが気に入りました。私はこの言葉を何度も使用したため、スタッフはこのフレーズがスピーチ原稿に出てくるたびに、それを削除しようとしました。(会場笑)

しかし、私たちの関係をこれほど目に見える形で表現したものはなく、今日ほどこの言葉に意味があることはありません。日本と米国はこれまで以上に団結しています。(会場拍手)

太平洋が日本と米国を結びつけ、これほど近づけたのは、私たちの先人たちの開拓者精神と、私たち全員が共通に持つフロンティア精神のおかげだと私は信じています。フロンティアに立つ彼らの成功は、個人の努力だけではなく、チームとしての総合的な努力の結果でもあります。

これは国家間でも当てはまります。私たちの共同の取り組みは多様であり、私たちの明るい未来と世界の平和と安定にとって不可欠です。私たちは今、揺るぎない日米関係をさらに高め、次世代に引き継いでいくための新たな境地に踏み出す歴史の転換点に立っています。

最後に皆さんご存知のスタートレック(米国のSFドラマ)のセリフ「誰も行ったことのないところへ果敢に行く」で締めくくりたいと思います。(会場笑いと拍手)

ちなみに、USSエンタープライズ(スタートレックに登場する宇宙艦)の操舵手ヒカル・スールーを演じたジョージ・タケイも広島にルーツを持っています。(会場笑いと拍手)

大統領、バイデン博士、ご来賓の皆様、そして紳士淑女の皆様、私たちのフロンティアへの航海に乾杯したいと思います。日米関係のこの言葉、Boldly Go!(人類未到の地へ果敢に旅立とう!)。乾杯!

岸田首相のスピーチに対し、バイデン大統領は「グッドジョブ!」と称賛し、岸田首相も謝意を示して、晩餐会は歓談の時間に移った。(フジテレビ,政治部)

話し方教室の視点/今日の一言
「良いスピーチには戦略がある」

上記のスピーチを見て、私は、これから和やかな晩餐会が始まる前のスピーチに相応しい内容だと思いました。あわせて、日本の首脳級の政治家もスピーチが上手くなったなあと、嬉しく感じたのでした。

もっとも、その背後には、おそらく、アメリカのスピーチコンサルタントや日本のライターの存在があった、と私は見ています。

さて、内容面をざっと俯瞰してみましょう。構成は以下の①~④の構成になっています。

①おもてなしへの謝意

②導入
冒頭、つかみで、笑いをとる。

③展開(中心となるメッセージ)
・日米の歴史(広島とアメリカの繋がり)
・日米のこれから
時折ユーモアも交えて

④結び
米国のSFドラマのセリフでスピーチを結ぶ

構成としては、このタイプのスピーチの標準的構成といえます。しかし、秀逸だと思える点が3つあります。

まず、冒頭のつかみで笑いを取っている。次に、中心となるメッセージでもユーモアを忘れていない。さらに、結びは聞き手が良く知っているドラマのセリフで結んで強い印象を残しているところです。

このスピーチは、事前の戦略通りに行われたことが分かります。

そうです。良いスピーチ、成功するスピーチには戦略があるのです。そのことをおわかりいただける良い例だと思いとりあげてみました。どうぞ、ご参考になってください。

学院総長 酒井美智雄

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