「部下の挑戦を引き出す上司の聞き方|話し方教室が解説する”部下の成長を促す対話”の基本」(話し方・あがり症克服 教養講座)


「仕事は順調だけど、部下から新しい提案が出てこない」。そんなときは、面談が進捗確認だけで終わっていないか、振り返ってみる必要がありそうです。目の前の仕事に取り組む意欲と、これから何かを変えようとする意欲は、必ずしも同じではないからです。

日本能率協会総合研究所(JMAR)が2026年10月26日に公開した1万人調査では、現在の仕事・会社への貢献意欲が高い人の37.2%は、会社の将来づくりへの意欲を示す「未来共創エンゲージメント」の上位グループには該当しませんでした。挑戦を相談・提案できる環境との関連性が報告されています。

この調査を手掛かりに、本学・話し方教室では、部下の挑戦を具体化する(上司の)対話について考えてみました。

1.進捗確認だけから、成長を話す1on1にしていく

「順調ですか」以外に工夫や手応えも聞いてみる

「進んでいますか」「問題はありませんか」は、業務管理に必要な質問です。ただ、それだけでは、本人が何に面白さを感じ、どんな力を伸ばしたいのかまでは分かりません。

「最近の仕事で、自分なりに工夫できたことはありますか」「どの場面で手応えを感じましたか」と尋ねてみることを提案します。具体的な経験を入り口にすると、漠然と将来の希望を聞くよりも話しやすくなります。

例えば、部下が「顧客への説明資料を変えたら、質問が減りました」と話したら、「どこを変えたのですか」と掘り下げます。その工夫から、本人の関心や得意なことを一緒に探せます。

漠然と「やりたいことは?」よりも身近な改善を聞いてみる

突然「将来何をしたいですか」と聞かれても、すぐには答えられない人が多いでしょう。大きな目標を求める前に、日々の仕事で感じている小さなことを聞きだします。

「今の手順で、一つ変えられるならどこですか」「お客様のために、もう少しできそうなことはありますか」と尋ねます。挑戦を新規事業や昇進だけに限定しないことがポイントです。

答えが出ない場合も、その場で結論を求める必要はありません。「次の面談までに、気づいたことがあれば教えてください」と伝え、考える時間を確保します。

2.傾聴と承認で、挑戦を話せる関係をつくる

提案の評価を急がず背景を尋ねてみる

部下が提案した直後に「予算がない」「前にも試した」と返すと、何を改善したいのかを十分に聞けないまま会話が終わります。まずは、提案の背景を確かめましょう。

「どんな困りごとから考えたのですか」「実現すると、誰にどんな良い変化がありますか」と聞きます。内容を整理して、「入力の重複を減らし、顧客対応の時間を確保したいのですね」と時折要約して理解を示すことは大切です。

部下の意見を受け止めることと、その採用を約束することは別のことになります。話を理解したうえで、実現条件や懸念点を話し合うことで、検討すべき論点も明確になります。

具体的な行動を承認する・異なる意見は理由を尋ねる

承認するときは、「すごいね」だけで終わらせず、実際に見聞きした行動を言葉にします。

「現場の困りごとを3人に確認してから提案した点が、とてもよかった」と伝えれば、何を評価しているかが分かります。結果が出る前でも、部下が調べたことや協力を求めた行動は確認できます。

一方で、上司の期待に合わせた答えを求めない姿勢も必要です。「私の案について、進めにくそうな点はありますか」と尋ね、違う意見が出たら理由を聞くことです。部下の主体性を重視するなら、上司への異論も対話の材料になります。

3.対話を行動につなげる・その行動を振り返り成長につなげる

小さく試す、その範囲・役割・支援を一緒に決める

提案を聞いて「いいですね」で終えると、部下は次に何をすればよいか迷います。実行を検討できる案なら、最初の一歩を具体化します。

例えば、「まずは一つの商品で、2週間だけ新しい説明資料を試してみませんか」と範囲を絞ります。そのうえで、「自分で進められる部分はどこですか」「私に調整してほしいことはありますか」と確認します。

担当範囲だけでなく、使える時間や相談先も共有することが重要です。通常業務との両立が難しければ、優先順位を調整します。挑戦を促す言葉には、実行できる条件を整えることも重要です。

見送る理由を伝える・振り返りの機会を共有する

すべての提案を実現できるわけではありません。見送る場合は、「難しい」で終わらせず、判断の理由を説明します。

「改善の必要性は理解しています。ただ、今月はシステム変更ができません。手作業で試せる部分がないか、来週一緒に整理しましょう」と、可能な対応を伝えます。再検討できない場合も、その条件を曖昧にしないことが大切です。

実施した後は、成功・失敗だけで評価せず、「予想と違ったこと」「次に変えたいこと」を聞いて成長につなげることだ大切です。

話し方教室・専門家の視点/酒井学院長の一言

部下の挑戦を引き出す対話とは、日々の手応えや改善したいことを聞くところから始まります。背景まで傾聴し、具体的な行動を承認し、次に試すことと必要な支援を一緒に整理することが上司のコミュニケーションとして大切な点です。

まずは次の1on1で、「今の仕事で、一つ変えてみたいことはありますか?」と尋ねてみてください。答えを急がず、しっかり聞いて、受け止めることから始めてみてはいかがでしょうか。

日本コミュニケーション学院 創設者・学院総長 酒井美智雄

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